読書「津軽」

太宰治によって津軽の地理や歴史や風習が楽しく紹介されている話。道中友人と合流してごちそうやお酒を楽しむ描写は,水筒にお酒をたっぷり詰めて出歩いたりとか,本当に楽しい。特にSさんが猛烈に歓待するところ,さらにSさんの翌日談のところはおかしくて笑ってしまった。あとやっぱり鯛のところ。

Sさんはその翌日、小さくなつて酒を飲み、そこへ一友人がたづねて行つて、 「どう? あれから奥さんに叱られたでせう?」と笑ひながら尋ねたら、Sさんは、処女の如くはにかんで、「いいえ、まだ。」と答へたといふ。  叱られるつもりでゐるらしい。

そんなかんじでずっと楽しく読めていたのだけれど,ラストのたけとの再会のところでは,たけが一気に語る部分でぐっときてしまった。

「久し振りだなあ。はじめは、わからなかつた。金木の津島と、うちの子供は言つたが、まさかと思つた。まさか、来てくれるとは思はなかつた。小屋から出てお前の顔を見ても、わからなかつた。修治だ、と言はれて、あれ、と思つたら、それから、口がきけなくなつた。運動会も何も見えなくなつた。三十年ちかく、たけはお前に逢ひたくて、逢へるかな、逢へないかな、とそればかり考へて暮してゐたのを、こんなにちやんと大人になつて、たけを見たくて、はるばると小泊までたづねて来てくれたかと思ふと、ありがたいのだか、うれしいのだか、かなしいのだか、そんな事は、どうでもいいぢや、まあ、よく来たなあ、…」

たけが太宰治のことをどれだけ愛してたのかが伝わってきて,外で読んでいたら不覚にも泣きそうになっていしまった。たけは龍神様の桜の樹の下で,小枝の花をむしりながら一気に話したって書いてあるので,こんな桜の時期(青森はもう少し遅い時期だろうけど)に再会を果たしたのだなあと感動してしまった。 あと,途中途中はっとするような美しい描写が沢山。旅館で友人が大声で歌ってそのままお開きになってしまった酒宴の翌朝,寝ていると旅館の女の子が遠くで歌を歌っているのを聞くシーンとか。 太宰治の作品の中でこの作品が一番好き!

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3月31日の桜